就業時間中にゼッケンをつける従業員に取り外し命令や賃金カットを行えますか?

執筆者
弁護士 竹下龍之介

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士

保有資格 / 弁護士

質問マーク就業時間中に、ゼッケンをつける従業員がいるのですが、取り外し命令を行えますか?

また、命令に従わない従業員に対し、賃金のカットを行うのはどうでしょうか?

給料のイメージイラスト

 

 

弁護士の回答

弁護士竹下龍之介イラスト

ゼッケンの取り外し命令は、行い得ます。

賃金のカットについては、判例が分かれているため、慎重な判断が必要です。

 

 

解説

職務専念義務

疑問に思う女性のイメージイラスト職務専念義務とは、使用者の指揮命令に服しつつ職務を誠実に遂行することに専念し、他の私的活動を差し控える義務のことであり、労働者はこの義務を負うとされています(菅野923頁)。

では、就業時間中の組合活動は、職務専念義務に違反し、許されないのでしょうか。

判例と学説

ア 職務専念義務については、最高裁の立場は必ずしも明確ではありません。実際、職務専念義務の程度が職種により異なるかのような判断もなされているところです。

この点、最高裁は、公務員及びそれに準じる労働者や特殊な環境で就労するホテル従業員等については高度の職務専念義務を認めつつ、一般の民間労働者の職務専念義務はそれより緩やかなものと解すると、一応は、整合性が保てそうです(西谷255頁)。

書籍の写真イ 学説

学説では、職務専念義務は、単に与えられた業務に身体的に従事するというにとどまらず、職務の種類に応じて客観的に要求される精神的集中をもって職務に従事する義務ではあるものの、就業時間中は職務に全身全霊を集中し職務以外のことに一切注意力を向けてはならないというレベルの高度の義務ではありえないとされるのが有力です。

その帰結として、就業時間中の組合活動が禁止されるのは、労働者の精神的集中を妨げる蓋然性があり、かつ業務の性質上、その精神的集中の低下が業務に悪影響を及ぼす蓋然性があるような行為に限られると解されるべきとします。

 

リボン等着用行為

リボン等着用行為の性格

リボンのイラスト労働者が組合活動として、就業時間中に、リボン、プレート、ワッペン、バッジ、鉢巻、腕章、ゼッケン等を着用することがあります。

労働組合の意図としては、①組合員の士気の昂揚、②使用者への心理的圧力、③顧客・第三者へのアピール等にあるとされています(西谷256頁)。組合活動としてのリボン等着用行為は、通常、相当多数の労働者によって同時に実施される点が特徴的です。

リボン等を着用したからといって、業務阻害がなされるわけではないのが通常であり、争議行為とはいえません。

しかしながら、労働者の団体行動の一種であり、例えば、リボン等の着用を理由とする懲戒処分は、組合員たることを理由とする不利益取扱として不当労働行為にあたり得ます。

 

リボン等着用行為についての裁判例の考え方

解説する弁護士のイメージイラスト裁判例は、リボン等着用行為について、考え方に変遷がみられます。

すなわち、かつては、終業時間中のリボン等の着用は、労働者が使用者に対して負担する義務と抵触せずになされるものであり、なんら社会的常識に反するともいえないし、原則として正当化されるという立場をとっていました(全逓灘郵便局事件・神戸地判昭42.4.6労民集18巻2号302頁、七十七銀行事件・仙台地判昭45.5.29労民集21巻3号689頁、等)。

しかし、国労青函地本事件において札幌高裁判決(昭48.5.29労民集24巻3号257頁)は、勤務時間中に組合活動としてリボンを着用することは、職務専念義務に違反し、さらに服務規程にも違反するとの立場を示しました。これ以後、裁判所は、基本的にリボンの着用は職務専念義務に違反するという立場を固めています。

なお、個人の政治的主張を内容とするプレートの着用を職務専念義務違反と判断した最高裁判例として目黒電報電話局事件判決(最三小判昭52.12.13民集31巻7号974頁)があります。また、ホテル従業員の組合活動としてのリボン着用の正当性を否定した最高裁判例として大成観光事件判決(最三小判昭57.4.13民集36巻4号659頁)があります。

裁判所のイメージ画像このように、最高裁は、リボン等の着用の正当性を否定する運用をしています。何らの具体的な主張を記していない組合バッジについてさえ、その就業時間中の着用には否定的です(国鉄鹿児島自動車営業所事件・最二小判平5.6.11労判632号10頁)。

なお、組合マーク入りのベルトの着用については正当と認めた判例として、JR東日本(本庄保線区)事件(最二小判平8.2.23労判690号12頁)があります。

 

使用者の対応とその法的評価

着用禁止、取外し命令について

解雇・パワハラのイメージ画像就業時間中のリボン等着用行為の正当性を否定する判例の立場からは、使用者は個々の労働者に対してリボン等の着用禁止や取り外しを命じうることになります。

また、リボン等を着用した労働者に対して、労働契約上義務づけられる業務の範囲内であれば、他の仕事を命じることも許されています。

もっとも、他の仕事が懲罰的な意味をもち、それ自体、人格権侵害に該当するなどの場合には、そうした業務命令は無効であり、不法行為となりうるので、注意が必要です(国鉄鹿児島自動車営業所事件・福岡高宮崎支判平元.9.18労民集40巻4=5号505頁参照)。

 

就労拒否・賃金カットについて

使用者がリボン等を着用して労務を提供しようとする労働者の就労を拒否し、その時間分の賃金をカットしうるか否かについて、判例は分かれています。

リボン等を着用してなされる労務提供は、債務の本旨に従った履行でないとし、賃金カットを適法とするものとして、三井鉱山三池炭坑宮浦鉱事件(福岡地判昭46.3.15労民集22巻2号268頁)や沖縄全軍労事件(福岡高那覇支判昭53.4.13労民集29巻2号253頁)があります。もっとも、後者の裁判例は、同様の見解を出発点としつつそこから一歩進んで、使用者が就労を拒否しうるか否かは諸般の事情の考慮により決すべきとしたうえで、賃金カットを適法としています。

拒否のイメージ画像同様の判断枠組みを採用しつつ、当該事例においては賃金カットを違法と判断したものとしては、第一交通事件(福岡高判昭58.7.28労判422号58頁)があります。

なお、労働者の集団的行動を理由としてその就労を拒否し、その時間に相当する賃金を支払わないという使用者の態度は、ロックアウト(詳しくはQ&A「「ロックアウト」とはどのようなものですか?」をご覧ください)に似ています。(もっとも、ロックアウトは飽くまでも争議行為に対する対抗手段ですから、組合活動としてのリボン等着用行為に対する就労拒否とは区別が必要です。)

 

 





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