ピケッティングとは?弁護士がわかりやすく解説

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家

ピケッティングとは、ストライキ(労働組合の要求を実現するために従業員が働かなくなること)を維持、強化するために、働こうとする従業員や会社の事業活動を制止する行動をいい、省略してピケとも呼ばれています。

ピケッティングが行われると事業ができなくなるため会社にとっては大打撃となります。

会社の業績が悪化すれば賞与や給料も支払えなくなるおそれがあるため、従業員の生活にも大きな影響を及ぼします。

そのため、ピケッティングは正当性が必要と考えられています。

ここではどのような場合にピケッティングがNGとなるかについて、労働問題に詳しい弁護士が実際の裁判例をもとに解説します。

 

 

ピケッティングとは

ピケッティングとは、ストライキを行っている労働者たちがそのストライキを維持し、又は強化するために、労務を提供しようとする労働者や業務を遂行しようとする使用者側の者又は出入構しようとする取引先に対し、見張り、呼びかけ、説得、実力阻止その他の働きかけを行う行動を指します(菅野918頁)。

典型的には組合員でスクラムを組んで就労する従業員を制止したり、製品の出荷を阻止したりする行動が挙げられます。

こうしたピケッティングの性質から明らかなとおり、単純なストライキに比べ、使用者の事業活動に与える影響が大きくなり、実力行使が伴うことからその正当性がこれまで問題となってきました。

この点に関して、最高裁判所は、後述する国労久留米駅事件をはじめとしてピケッティングに対しては厳格な態度をとってきています。

 

 

ピケッティングの正当性を否定した裁判例

判例 国労久留米駅事件 最大判昭48年4月25日(刑集27巻3号418頁)

この事案は、旧国鉄職員が争議行為の一環として駅構内にある信号所に使用者の警告を無視して侵入し、座り込みを継続した行為が建造物侵入、公務執行妨害罪に問われたものです。

その中で、正当な争議行為として違法性が阻却され、刑事免責が認められるかが争点となりました。

最高裁は、一般論として以下のように述べています。

「勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行なわれた犯罪構成要件該当行為について刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するにあたつては、その行為が争議行為に際して行なわれたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判定しなければならない。」

その上で、本件の事案について、

「被告人○○は、当局側の警告を無視し、勧誘、説得のためとはいえ、・・・かかる重要施設である久留米駅東てこ扱所二階の信号所の勤務員三名をして、寸時もおろそかにできないその勤務を放棄させ、勤務時間内の職場集会に参加させる意図をもつて、あえて同駅長の禁止に反して同信号所に侵入したものであり、また、被告人××および同△△は、労働組合員ら多数が同信号所を占拠し、同所に対する久留米駅長の管理を事実上排除した際に、これに加わり、それぞれ同所に侵入したものであつて、このような被告人ら三名の各侵入行為は、いずれも刑法上違法性を欠くものでないことが明らかであり、また、このように解して被告人ら三名の刑事責任を問うことは、何ら憲法28条に違反するものではない。」(記号は執筆者加筆)

として、正当性を否定しています。

判決文を見る限り、鉄道事業において非常に重要な信号所を占拠したという行為の危険性が考慮された事案といえます。

判例 【参考裁判例】御國ハイヤー事件 最二小判平4年10月2日(労判619号8頁)

この事案では、賃上げ交渉が停滞した労働組合の組合員がストライキを実施したところ、使用者が管理者のみでタクシー営業を継続しようとしたため、タクシーを停止させた近くに組合員が座り込んだり、寝転んだりして車庫を占拠した行為が問題となりました。

使用者は、組合員の行為が不法行為にあたるとして損害賠償請求を行った民事の事案です。

この事案で、最高裁は、

「ストライキは必然的に企業の業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は労働者が労働契約上負担する労務提供義務の不履行にあり、その手段方法は労働者が団結してそのもつ労働力を使用者に利用させないことにあるのであって、不法に使用者側の自由意思を抑圧しあるいはその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは許されず、これをもって正当な争議行為と解することはできないこと、また、使用者は、ストライキの期間中であっても、業務の遂行を停止しなければならないものではなく、操業を継続するために必要とする対抗措置をとることができる。」と判断し、「右の理は、非組合員等により操業を継続してストライキの実効性を失わせるのが容易であると考えられるタクシー等の運行を業とする企業の場合にあっても基本的に異なるものではなく、労働者側が、ストライキの期間中、非組合員等による営業用自動車の運行を阻止するために、説得活動の範囲を超えて、当該自動車等を労働者側の排他的占有下に置いてしまうなどの行為をすることは許されず、右のような自動車運行阻止の行為を正当な争議行為とすることはできないといわなければならない。」(下線部執筆者加筆)

として、組合員の占拠を正当な争議行為とはいえないと結論づけています。

 

 

まとめ

以上、ピケッティングの意味や違法となる場合について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。

ピケッティングはどのような方法でも認められるものではありません。

裁判実務上は、単純なストライキを超えたピケについては正当性を認めない傾向です。

労働組合の活動は法律上ある程度保障されているもののその境界線は不透明で判断が難しい場合があります。

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