抜き打ちストライキは許されるか?【弁護士が解説】

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

質問マークストライキが抜き打ちで行われました。

このような場合も使用者は許容しなければならないのでしょうか?

社長のイメージイラスト

 

 

弁護士の回答

弁護士西村裕一イラスト

使用者にあらかじめ予告をしなかったということから直ちに争議行為の正当性が否定されるわけではありません。

したがって、抜き打ちストでも使用者はそれを許容しなければならないケースはあります。

 

 

解説

予告なしストライキの問題点

組合のイメージイラスト抜き打ちストとは、使用者にあらかじめ予告をせずに行われるストライキのことです。

事前に日時を通知されれば、使用者としては予測可能性がありますが、予告がない場合には、不測の損害が生じる可能性が高くなり、使用者への影響は大きくなるといえます。

こうした予告なしに行われる抜き打ちストも正当な争議行為といえるのでしょうか。

この点については、それが予告なしに行われたことにより、使用者の事業運営に混乱や麻痺をもたらしたかどうか、その程度はどの程度か、混乱を労働組合が意図していたものかといった観点から個別具体的に判断されると考えられています(菅野914頁)。

したがって、抜き打ちで行われたからといってそれだけを理由に正当性が否定されることはありません。

公共事業のイメージ写真

なお、運輸事業、郵便、電気通信事業、水道・ガス供給事業、医療・公衆衛生事業に関する争議行為に関しては、法律上少なくとも10日前までに労働委員会及び厚生労働大臣または都道府県知事にその予告をしなければならないとされています(労調法37条1項)。

この規定の趣旨は、公益事業の場合には、市民の日常生活に与える影響が大きいため、その不利益を最小限にするためです。

 

ストライキの裁判例

日本航空事件 東京地決昭41年2月26日(労民17巻1号102頁)

航空会社のイメージ画像「一般に争議行為の時期・方法・範囲は、争議戦術の問題として労働組合の自主的な選択に委ねられているものと云えるけれども、これら争議行為の態様ないしその選択が、有利な労働条件獲得のための実行的手段であると云う争議行為本来の目的を超えて、企業の存立自体を危くする結果を招来し、或いは専ら使用者に対する加害を意図したものであるときは、右争議行為は労使間の信義則違背ないし争議権の乱用として違法なものと云うべく、このことは使用者に対する争議行為通知の時期に関しても同様である。」
この裁判例では、上記のように一般論を論じた上で、本件で問題となった指名ストについて、全くの抜き打ちではなく、蓋然的な実施期間を1週間前の予告で明らかにしていたことから、具体的な指名ストの実施が2時間前に通告されたとしても争議権の濫用には当たらないと判断しています。

 

国鉄千葉動労事件 東京高判平13年9月11日(労判817号57頁)

線路のイメージ画像この裁判例は、旅客鉄道の乗務員組合が事前にストライキの開始時刻を予告していたにもかかわらず、会社が当該予告に対して構内への立入禁止措置を講じたため、その抗議を行う目的で12時間前倒しでストライキを決行した事案である。
裁判所は以下のとおり述べて、正当性は認められないと結論づけた。
「被控訴人(使用者)において、控訴人が、利用客が既にストライキがないものとして当日の行動を開始している時点で、あえて影響の大きいことが容易に予想されるストライキの前倒しを行うことがあると予測していたと断ずることまではできない。」
「被控訴人は、公衆の日常生活に欠くことのできない旅客鉄道運輸事業という公益事業を業務としており、控訴人は、その乗務員を中心とする従業員等により構成される労働組合であるから、本件前倒し実施のように、当初通告したストライキ開始時刻を突如繰り上げて、一定の期間を置くことなく直ちにストライキを行えば、被控訴人が代替乗務員を確保することができず、被控訴人の業務の遂行に重大な混乱をもたらし、ストライキを予測し得なかった乗客にも多大な不利益を被らせることとなることを十分認識していたものとみるべきである。・・・以上によれば、本件前倒し実施により運休列車が249本、遅延列車215本にも及ぶ重大な混乱が生じた原因は、控訴人が事前の通告に反して、僅か5分前にストライキを前倒しする旨を通告した後、本件前倒し実施を行ったことにあり、控訴人は、このような重大な結果が生ずることを予測していたというべきであり、したがって、本件前倒し実施は、その手続、手段、態様において、正当性を欠くものというべきである。」(下線部、執筆者加筆)

ポイント両者の判断が異なったのは、後者の裁判例はあらかじめ明確にその時間にストライキを行うことを予告していた状態から5分前の通告により12時間も早めることになったという点、そのことから450本を超える列車に運休、遅延が生じたという点が大きく影響していると考えられます。

 

 

ストライキの手続

ストライキは、開業等への影響が大きいため、手続違反があると違法となる可能性があります。

例えば、以下のようなケースでは手続違反が問題となり得ます。
街宣活動

  • 労働組合の一部が組合の総意に反してストライキを実施する
  • 労働組合の要求に対して、会社が回答をする前に一方的にストライキを実施する
  • 役員の自宅へ行って面会を強要する
  • ストライキの目的が労働条件の改善を目的としてない

ストライキの正当性が認められない場合で、会社が損害を被った場合、労働組合に対して損害賠償を請求できる可能性があります。

労働組合への損害賠償についてはこちらのページをご覧ください。

 

ストライキを未然に防止するために

団体ストライキは会社への影響が大きく、業績の悪化などが懸念されます。

そのため、可能であれば、ストライキを未然に防止すべきです。

また、ストライキが行われている場合は、一刻も早く解決すべきといえます。

そのためには、会社が労働組合と真摯に向き合い、冷静になって対応することが必要です。

また、労働組合のストライキが違法行為である場合は、迅速に、警告書の送付や裁判所への申立て等を検討すべきでしょう。

労働組合の違法活動に対しては、こちらのページに詳しく解説しております。ぜひご覧ください。

 

 

まとめ

以上、抜き打ちストライキの問題点ついて、詳しく説明しましたがいかがだったでしょうか?

労働組合のストライキは、企業への影響が大きいため、早期解決が極めて重要です。

また、抜き打ちストライキは、ケースによっては正当性が認められない場合があります。

この正当性の判断やストライキへの対応については、労働問題に精通した専門家に相談し、助言を受けると良いでしょう。

デイライト法律事務所には、労働問題に注力する弁護士や社労士のみで構成される労働事件チームがあり、労働組合相手に企業が不利益を被らないようサポートします。

労働組合との団体交渉への同席サポートなども行っております。

労働組合の対応については、手遅れになる前に、当事務所までまずはご相談ください。

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