労働協約が期間満了で終了した後の労働条件の決定方法を教えてください。

執筆者
弁護士 竹下龍之介

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士

保有資格 / 弁護士

質問マーク労働協約が期間満了で終了した場合、就業規則を改訂して労働条件を引下げることはできますか?

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弁護士の回答

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労働協約の規範的効力はなくなる以上、就業規則の改訂による労働条件の引下げは(労契法10条の就業規則の不利益変更の要件を満たす限りにおいて)可能であるようにも思えます。

もっとも、①労働契約の継続的性質や②当事者間の合理的意思により、旧協約を労働契約の内容とみる裁判例もあるため、注意が必要です。

 

 

解説

労働協約の終了原因

労働協約の有効期間は、労組法15条に定めがあります。

これによると、労働協約は3年を超える有効期間を定めることはできません(1項)。

3年を超える有効期間を定めた場合には、3年の有効期間を定めたものとみなされます(2項)。

有効期間の定めのない労働協約や期間経過の後自動延長されている労働協約については、当事者の一方が、署名もしくは記名押印ある文書をもって90日前までに予告したうえで解約できます(3項)。

時間のイメージ画像このように、労働協約は、期間を定めた条項又は当事者からの解約により、終了します。

もっとも、使用者からの解約の場合、不当労働行為にならないよう注意が必要です。

使用者が組合弱体化の意図をもって協約を解約し、協約の改廃に関する団体交渉も拒否している場合には、支配介入の不当労働行為となり、解約は私法上も無効となると判断した裁判例があります(布施自動車教習所・長尾商事事件・大阪地判昭50.7.30労判393号35頁、駿河銀行事件・東京地判平2.5.30労判563号6頁)。

 

労働協約終了後の労働条件

チェックリストのイラストでは、労働協約が終了し、新たな協約が成立しないという状況の場合、労働条件はいかにして決定されるのでしょうか。労働協約が終了した以上、当該協約の内容が労働条件に反映されることはないのでしょうか。

仮に、労働協約の内容が労働条件に反映されることがないとすると、使用者は、就業規則の改訂を行うことで労働条件の引下げができるようにも思えるため、問題となります。

この点、裁判例は、協約の終了とともに、その規範的効力が消滅することを認めています。

もっとも、協約で定められていた労働条件が空白になると解するのではなく、事実上、旧協約所定の労働条件が継続することを認める解釈を試みています(いわゆる制度的余後効説・西谷393頁)。

労働条件のイメージ画像労働協約の規範的効力を外部的な規律とする外部規律説(くわしくはQ&A「労働協約の締結によって、労働条件を不利益に変更できますか?」をご覧ください。)からも、労働条件の空白状態の発生を回避するために、①労働契約の継続的性質や、②労働契約当事者の合理的意思を媒介とすることで、同様の結論を認めることが可能です(朝日タクシー事件・福岡地小倉支判昭48.4.8判タ298号335頁)。

なお、この論点をどう解するかは、労働協約の規範的効力をいかに解するかと関連して、裁判例も分かれており、統一的な見解はありません。

しかしながら、何らかの法律構成をとったうえで、旧協約の労働条件を継続させようという考え方は概ね共通しているようです。

【参考裁判例】朝日タクシー事件 福岡地小倉支判昭48.4.8(判タ298号335頁)

タクシーのイメージ画像労使間の労働協約が期間満了等により消滅した場合において新協約成立までの措置につき別段の合意が存しないときは、協約の効力はその規範的部分たると債務的部分たるとを問わず終局的に消滅し協約自体のいわゆる余後効のごときものはありえない、というべきであるが、協約の成立により一旦個別的労働協約の内容として強行法的に変更され承認された状態ないし関係は協約失効後における労働契約の解釈に当つてもできるだけ尊重さるべきが継続的労使関係の本旨に副う所以であつて、後記事情の変更のごとき特段の事由がある場合を除き、個別的労働協約は協約満了時における労働協約の内容と同一内容を持続するものであり、使用者において一方的に労働契約の内容を改訂変更することは許されない、と解するのが相当である。
しかして協約失効後の個別的労働契約は更に新たな労働協約の締結によつて変更されうべきことはもとよりであるが之に止まらず組合の団結権を侵害しない目的、性質、程度において個々的に契約内容を変更すべき旨の個別的な合意の成立により変更しうべきものであるが、右の外更に労使間の諸般の事情が極端に変化し、従前の契約内容を持続することが信義則に反するに至つたと認められる場合において、当該事情の変更が変更を主張するものゝ責に帰すべからざる事由に基き且つ従前の契約成立当時予見しえざりし性質程度のものであるときは、事情変更の法理により契約内容を一方的に変更ないし解除することが許されると解すべきである。

 

 





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