会社の経営政策を批判するような組合活動は許されるのですか?

執筆者
弁護士 竹下龍之介

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士

保有資格 / 弁護士

弁護士の回答

弁護士鈴木啓太イラスト

個別の批判の内容、態様によりますが、会社の経営政策を批判するからといって、直ちに許されない組合活動になるというわけではありません。

 

 

解説

使用者批判の性格

使用者のイメージイラスト使用者批判は、労働組合の行う言論、宣伝活動において重要な内容となります。

こうした批判活動が企業内で行われる場合には、その行為態様との関連で、使用者の施設管理権や業務命令権と絡めて評価されることが多いです。

一方、企業外で行われる場合には、通常は施設管理権や業務命令権と関わりをもたないため、その内容が独自に問題にされることになります。

では、このような労働組合による使用者批判は、どのような保護を受け、どのような限界があるのでしょうか。

 

表現の自由と団結権

保障の根拠

六法全書のイメージ画像労働組合による使用者批判活動は、個々の労働者による批判活動と同様に、まずは表現の自由(憲法21条1項)の行使として保障されます。

加えて、組合活動として行われる使用者批判の活動は、同時に憲法28条の団結権の行使たる性格をもっています。

そのため、労働組合の言論活動が、使用者の労務管理や企業の経営方針・企業活動への批判に及び、そのために使用者が多少の不利益を受けたり、企業の社会的信用が低下することがあったとしても、それだけではまだ、組合活動としての正当性が否定されるものではありません。

中国電力事件(広島高判平元.10.23労判583号49頁)も同様の立場にたっています。

 

限界

もっとも、労働組合の批判活動も、無制限ではありません。表現の自由(憲法21条1項)にも限界があり、一定の制約を受けることと同様です。

そこで、以下、内容・態様別にみていきたいと思います。

名誉毀損・信用失墜の表現行為

名誉毀損について、刑法230条の2第1項は、
「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認められる場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない」
と定めています。

この条文が、名誉毀損罪についての、刑法上の違法性阻却事由を定めたものであることは言うまでもありません。

レッドカードのイメージ画像そして、民法上の不法行為責任においても、裁判所は、基本的に同様の判断枠組みをとっています(最一判昭41.6.23民集20巻5号1118頁)。

この視点は、組合活動としての批判活動の正当性判断にあたっても参考になります。

すなわち、労働組合の使用者に対する批判は、労働者の経済的地位の向上や労働組合の強化という目的のもとで行われるので、目的の公益性の要件を満たします。とすると、問題は、摘示された事実が真実であるか、あるいは真実と信ずるについて相当の理由があるかです。

すなわち、いわゆる真実性の証明の要件を満たせば、組合活動の正当性が認められるということになります。

もっとも、組合活動の言論活動に、厳密性を要求するのは妥当ではありません。

真実性の判断に際しては、配布文書全体として真実性が認められればよいという考え方が有力で、同様の判断枠組みをとった裁判例が数多くあります。

判例のイメージイラスト例えば、
 山陽新聞社事件・岡山地判昭45.6.10労民集21巻3号805頁
 石川島播磨重工業事件・東京地判昭49.1.31労判195号32頁
 港タクシー事件・広島地判昭58.9.29判時1116号136頁
 医療法人財団みどり十字事件・福岡地小倉支判平7.4.25労判680号69頁
 エイアイジースター生命事件・東京地判平17.3.28労判894号54頁

なお、宣伝ビラにおいては、事実を紹介する部分とそれに対する批判の部分を区別すべきであり、批判にあたって誇大な表現が用いられても、そのことと真実性を混同しないように注意が必要です。

取引先等に向けた言論

裁判官のイラスト使用者批判の言動が、真実性の要件を満たす場合であっても、表現活動の対象や態様を理由として正当性が否定されることがあります。

この点、取引先へのビラ配布や出向企業へのビラ配布に対しては、業務への影響の可能性を理由として、正当性を否定する裁判例が少なくありません。

裁判例としては、ヤーマン事件(東京地判昭60.12.23労判467号55頁)、真壁組事件(大阪地判平8.5.27労判699号64頁)等があげられます。

経営者の自宅付近での抗議活動・宣伝活動

拡声器のイメージイラスト労働組合が、経営者や管理職の自宅付近で、宣伝・抗議活動を展開することがあります。このような言論活動に対して、使用者としては何をなし得るでしょうか。

まず、考えられるのが、当該労働組合に対する損害賠償請求です。場合によっては、言論活動そのものの差止め請求も考えられるでしょう。

では、これらの請求を裁判所は認めるのでしょうか。

この点に関して、裁判例は、概して、労働組合に厳しい態度をとっており、労働組合に対する損害賠償請求、宣伝・抗議活動の差止め請求を認容し、組合活動としての正当性を否定しています。

裁判所のイメージ画像労働組合に対する損害賠償請求を認容した裁判例として、黒川乳業事件(大阪地判昭61.6.23労判479号10頁)、あけぼのタクシー事件(福岡地判昭62.10.13労判505号28頁)等があげられます。

差止め請求を認容した裁判例として、全日本建設運輸連帯労組関西地区生コン支部事件(大阪地決平3.5.9労判608号84頁)、東京ふじせ企画労組事件(東京地判平6.6.6労判664号54頁)等があげられます。

 

 

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