組合旗、横断幕を掲げる組合活動は正当なのですか?

執筆者
弁護士 竹下龍之介

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士

保有資格 / 弁護士

弁護士の回答

弁護士入野田智也イラスト

個別具体的な態様によりますが、近年は、正当性を認めない裁判例が増えています。

 

 

解説

組合旗、横断幕の性格

街宣活動のイメージ画像労働組合が、闘争時に、企業施設において組合旗を振りかざしたり、横断幕を掲げたりすることがあります。

使用者からすれば、組合旗等は、ビラ貼り以上に第三者へのアピール効果が大きいため、できればやめて欲しいと考えるでしょう。
これらの行為が許されるかを検討する前提として、その性格をビラ貼りと比較してみたいと思います。

まず、これらの行為は、組合員の士気の昂揚、使用者への圧力、第三者へのアピール等を目的として企業施設に接着してなされる組合活動という点で、ビラ貼り(くわしくはQ&A「労働者が無許可でビラ配布をした場合就業規則違反にできますか?」も合わせて御覧ください)と共通します。

もっとも、組合旗等自体が単なるビラと異なり財産的価値や象徴的意義をもつものである点、振りかざす行為や掲げる行為自体は企業施設を汚損するなどの影響をもつものでない点で、ビラ貼りとは異なります。

以下、組合旗の掲揚について、組合活動の正当性を肯定した裁判例と否定した裁判例をご紹介いたします。

①【参考裁判例】国労大阪事件 大阪地判昭49.5.31(判時754号92頁)

事案の概要

街宣活動のイメージイラスト本件は、昭和45年春闘に際し、国労の組合員たる原告らは組合の指令にもとづき、国鉄二条駅、京橋車掌区、加古川車掌区の構内にそれぞれ国労組合旗を国鉄当局の許可なく掲揚した。これが国鉄法32条にもとづく国鉄就業規則、職員管理規程(総裁達)、労働関係事務取扱基準規程にいう国鉄構内での文書ビラ等の掲示の禁止にふれるとして、原告らはいずれも戒告処分を受けたのでその無効確認を求めたものである。


判旨と分析

(ア)右組合活動のなかでもことに組合旗の掲揚は、通常一般に、組合員の団結を維持、高揚するための基本的な手段として行なわれるものであることが明らかであるから、企業施設内でのかかる組合旗掲揚行為の組合活動としての正当性の有無を判断するについては、わが国における右組合活動の実態等に照らし、単に右組合旗の掲揚が使用者の有する施設管理権によって制限もしくは禁止されているという一事からだけではなく、当該組合旗掲揚の目的、態様、本数、場所、および組合旗の掲揚によって使用者の受ける支障の程度等の具体的諸事情を総合勘案して決すべきものと解するのが相当である。もとより、かかる組合旗の掲揚される施設そのものが営造物として前記公共性を有する本件のような場合においては、右判断にあたりこの点の考慮も省き得ないものといわなければならない。

(イ)大阪地裁は、以上のように判示したうえで、原告らの一人は撤去要求した当局側の者に暴行を加えており正当性を否定されたものの、その他の者については正当性ありとし、戒告処分を無効としました。

 

②【参考裁判例】光仁会病院事件 福岡高判平20.6.25(労判1004号134頁)

事案の概要

本件は、運営する病院の施設内に組合旗を設置された医療法人が、組合旗を設置した組合員、その地区組合及び組合本部らに損害賠償を求めたのに対し、医療法人から3か月の停職処分を受けた組合員が、本件処分の無効確認、停職期間中の賃金等の支払を求め、また、地区組合が損害賠償を求めた事案です。
原審は、医療法人の請求のみ一部認容としたため、組合員らが控訴し、医療法人が附帯控訴しました。


判旨

裁判官のイラスト本件のように、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで使用者の所有し管理する物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、当該施設を管理利用する使用者の権利を侵し、企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動には当たらないものと解するのが相当である(昭和54年最判参照)。
そして、控訴人X1ら組合員は、被控訴人の許諾を受けることなく、Y会病院の病院施設に本件組合旗を設置したものであるから、被控訴人が本件組合旗の設置を許さないことをもって権利の濫用であるということがいえない限り、本件組合旗設置行為等は、被控訴人の施設管理権を侵害し企業秩序を乱すものであって、正当な組合活動ということはできず、違法というべきである。そこで、被控訴人が本件組合旗の設置を許さないことが権利の濫用といえるか否かについて検討する。……(中略)
以上の本件組合旗設置前後の状況からすると、被控訴人は控訴人組合に対して敵意ないし反組合的意思を有していたことがうかがわれ、本件組合旗設置の動機にも、被控訴人の控訴人組合に対する敵対的行動や団体交渉に対する消極的態度に対する反発があったものと認められるが、他方で、本件組合旗の設置が当時経済的窮状にあった被控訴人の信用をさらに毀損する結果になったことも明らかであって、到底、被控訴人が本件組合旗の設置を許さなかったことをもって権利の濫用ということはできない。

そうすると、本件組合旗設置行為等は違法であって、不法行為を構成するというべきであると考えられます。

判例のイメージイラストその他、①と同様に組合旗について正当性を認めたものとして、動労千葉地本事件(千葉地判昭49.7.15判時754号92頁)、懸垂幕を掲げた行為について正当性を認めたものとして、順天堂病院事件(東京地判昭40.11.10労民集16巻6号909頁)があります。

また、②と同様に、組合旗等の正当性を否定するものとして、平和第一交通事件(福岡地判平3.1.16労判578号6頁)、全国社会保険協会連合会(鳴和総合病院)事件(東京地判平8.3.6労判693号81頁)があります。

 

 





労働組合(ユニオン)の活動についてのよくあるQ&A

その他の関連Q&A



  

0120-783-645
365日24時間電話予約受付(フリーダイヤル)

WEB予約はこちら