子会社の従業員からの団体交渉にも対応する必要はありますか?

執筆者
弁護士 鈴木啓太

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士

質問マーク子会社の従業員が労働組合(ユニオン)に加入して団体交渉を求めてきました。

対応する必要はありますか?

困る社長のイメージイラスト

 

 

弁護士の回答

弁護士西村裕一イラスト

子会社の従業員の労働条件について、雇用主と同視できる程度の現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあれば、その範囲の事項については団体交渉に対応する必要があります。

 

 

解説

親会社の使用者性

親会社と子会社はそれぞれ独立した法人格を有しており、子会社の従業員は、あくまで子会社との間でしか雇用関係はありません。

したがって、親会社としては、子会社の従業員から団体交渉を求められたとしても、原則応じる必要はないと考えられます。

判例のイメージイラストしかし、最高裁判所は、朝日放送事件(最三小判平7.2.28 民集49巻2号559頁)において
「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である。」
と判示しています。

組織図のイメージ画像この判例から分かるように、直接の雇用関係がなくとも、雇用主と同視できる程度に労働条件を決定できる立場にあれば、親会社であっても不当労働行為制度における「使用者」(労組法7条)として認定されることになります。

したがって、子会社の従業員から団体交渉を求められた場合には、雇用関係はない、という理由のみで拒絶することは危険です。求められている団体交渉事項を精査し、実質的に親会社が決定していると判断される事項が含まれているのであれば、団体交渉に対応した方が無難です。

 

親会社及び持ち株会社の使用者性が否定された事例

高見澤電機製作所ほか2社事件(東京高判平24.10.30別冊中労1440号47頁)では、親会社と持ち株会社の使用者性が否定されました。

以下、ご紹介します。

【参考判例】高見澤電機製作所ほか2社事件 東京高判平24.10.30(冊中労1440号47頁)

事案の概要

製造工場のイメージ画像製造等を営むA社の従業員であるBは、Ⅹ労働組合に加入していたところ、Y1社がA社の株式の約52%を取得し、A社の親会社になった。
その後、A社は、Ⅹ労働組合の同意なく、A社の全体にかかわる事業を他社に譲渡したり、Ⅹ労働組合の組合員に対して人事異動を発するなどしたため、Ⅹ労働組合はこれらに抗議し、A社とY1社に団体交渉を申し入れたが、Y1社はこれを拒否した。
さらに、その後、A社の持ち株会社としてY2社が設立され、Y1社はA社の株式を手放し、Y2社の株式を約68%取得した。
Ⅹ労働組合は、A社、Y1社、Y2社に対して、A社の工場の存続・発展のための今後の経営計画・事業計画と工場労働者の雇用確保などのための方策を明らかにすることを求める団体交渉を申し入れたが、Y1社、Y2社はこれを拒否した。


判旨の概要

東京地裁は、朝日放送事件の規範を述べた上で、
「Y1社は、資本関係及び出身の役員を通じ、子会社ないし孫会社としてのA社に対し、その経営について一定の支配力を有していたものとみることができるし、Y2社は、設立以後、資本関係及び兼務する役員を通じて、子会社であるA社に対し、その経営について一定の支配力を有し、営業取引上優位な立場を有していたものとみることができる」
として、Y1社とY2社がA社に対して支配、決定力があることを認めた。
しかし、Y1社とY2社の支配ないし関与は、
「あくまでも企業グループにおける経営戦略的な観点から、親会社ないし持株会社が子会社等に対して行う管理監督の域を超えるものではないというべきであり、日常的な労働条件に関する問題についても、また、 本件事業再建策等に伴う労働条件に関する問題についても」
「労働者の基本的な労働条件について雇用主と同視できる程度の現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったというだけの根拠は存在しない」
と判示し、Y1社とY2社は労組法7条の「使用者」には該当しないと判断した。


裁判例分析

分析のイメージイラスト裁判になる前段階の労働委員会の判断では、Y1社とY2社の使用者性は肯定されていました。
労働委員会は、Y1社とY2社のA社への影響力を重視し、使用者性を肯定したと考えられますが、裁判では、影響力や一定の支配力があることを認めつつも、労働者の基本的な労働条件を決定するところまでの地位になかったことを重視して使用者性を否定しているのです。
企業グループの頂点に立つ会社の方針や経営計画は少なからず子会社や孫会社に影響するものの、それだけでは、労組法7条の「使用者」には該当せず、それを超えて個々の労働者の労働条件を実質的に決定していると認められる程度の支配力が及んでいなければ、「使用者」には該当しないと考えられます。
労働委員会と裁判の結果が分かれていることからも分かるように、親会社と子会社の従業員の使用者性の問題は難しい問題です。
企業としては、子会社の従業員からの団体交渉の申入れであっても、安易に拒否するのではなく自社の影響力・支配力を十分に検討して対応すべきといえます。

 

 





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