昔経営していた会社の従業員の団体交渉にも応じないといけませんか?

執筆者
弁護士 鈴木啓太

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士

質問マーク企業を一度解散し、新たに新会社を設立したところ、旧会社の従業員が団体交渉を求めてきました。

対応する必要がありますか?

社長のイメージイラスト

 

 

弁護士の回答

弁護士橋本誠太郎イラスト偽装解散と認定されれば、使用者性が認められるので、団体交渉に対応する必要があります。

 

 

解説

労働契約終了後の使用者性

企業には、憲法22条1項によって営業の自由が保障されていますから、会社を解散することはもちろん自由です。解散すれば、従業員との雇用関係も終了するので、「使用者」としての立場もなくなり、団体交渉に対応する必要がないとも思えます。

裁判所のイメージ画像しかし、最高裁判所は、朝日放送事件(最三小判平7.2.28 民集49巻2号559頁)において
「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の「使用者」に当たるものと解するのが相当である。」
と判示しており、労組法7条における「使用者」を労働契約に基づく雇用主に限定していません。

したがって、労働契約が終了していたとしても、労組法7条の「使用者」に該当する場合はあります。

 

会社解散後の使用者性

では、会社を解散した後に新たに別会社を設立した場合、新会社は、旧会社の従業員の団体交渉の求めに応じる必要はあるのでしょうか。この点、学説・裁判例の中でも見解が分かれています。

解説する弁護士のイメージイラストもっとも、不当労働行為制度の趣旨は、使用者の団結権侵害を排除して正常な労使関係を回復させることにあることからすれば、労働組合の存在を嫌悪し、排除するためにあえて会社を解散したような場合には、新設された会社は、引き続き使用者としての地位を承継し、労組法7条の「使用者」とされることになるでしょう。

会社の解散の後、従前と実質的に同一の性格をもつ会社が再び設立されるような偽装解散の場合には、解散決議そのものを無効として、新会社と解雇された従業員の労働契約関係を認められるか、少なくとも労働委員会は実質上同一の会社における従業員として取扱等を命じうると考えられています(西谷169頁)。

 

解雇・退職の場合

解説する弁護士のイメージイラスト会社が従業員を解雇した場合、労働契約関係は切断され「使用者」に該当しないとも思えますが、従業員が解雇そのものを争って団体交渉を求めてきた場合には、会社はこれを拒否することはできません。

もっとも、解雇後、相当の期間が経過している場合にも団体交渉の対応を義務付けることは、さすがに会社に酷です。

したがって、従業員は、退職後、社会通念上合理的といえる期間内に団体交渉の申入れをしなければならないと考えられています(西谷154頁)。

退職のイメージ画像もっとも、退職後、団体交渉の申入れまでに長期間経過していたとしても、時間を要してしまったことに「やむを得ない事情」がある場合には、会社は団体交渉に応じる必要があります。

「やむを得ない事情」の具体例としては、労働者が在職時の業務従事中に石綿に曝露されたことによる肺がん等の疾病や肺の変異を退職後長期間経過した時点で知って、労働組合に加入し、元の雇用主である企業にその補償に関する団体交渉を求めたケース(住友ゴム工業事件大阪高判平21.12.22労判994号81頁)などがあります。

 





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