採用前の従業員からの団体交渉は拒否できますか?
労働組合(ユニオン)から採用前の従業員についての団体交渉を求められました。
対応する必要はありますか?
採用前でも、近い将来雇用関係が生じるのであれば、団体交渉に応じなければならない場合があります。
労働契約成立前の使用者性
不当労働行為が問題となるのは、原則として労働関係が存続している場合です。
もっとも、不当労働行為禁止の趣旨が、労働者の団結権を保護し、正常な労使関係を確立させるためであることを考えると、事案によっては、労働関係成立前であっても不当労働行為における「使用者」に該当する場合はあります。
使用者性が認められる場合
では、どのような場合に採用前の段階で「使用者」と認められるのでしょうか。
(1)この点、クボタ事件(東京地判平23.3.17労判1034号87頁)では、「使用者」について、「労働契約関係ないしはそれに隣接ないし近似する関係を基盤として成立する団体労使関係上の一方当事者を意味し、労働契約上の雇用主が基本的に該当するものの、雇用主以外の者であっても、当該労働者との間に、近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する者もまた、これに該当するものと解すべきである。」と判示しています。
同事案は、会社が派遣社員として就労していた労働者を直接雇用することを決定した後、会社が団交拒否した事案でしたが、裁判所は、会社の使用者性を認め、団交拒否が不当労働行為に該当すると判断しています。
(2)学説においても、労働者の雇用がすでに法的にもしくは事実上決定されている場合には、現実の労働関係が開始される前であってもその労働条件をめぐる団体交渉には応じなければならないと考えられています(西谷153頁)。
(3)他に、労働契約成立前であっても使用者性が認められる例としては、会社が合併する場合が考えられます。
会社の合併にあたっては、合併によって消滅する会社の労働関係が存続する会社に当然に承継されます。したがって、合併前の段階においても存続する会社は、合併前の会社従業員が組織・加入している労働組合との関係において「使用者」とされます。
また、雇用が、季節ごとに反復されている場合、次の雇用そのものや次の雇用における労働条件をめぐる団体交渉のように、労働者が特定の使用者に採用されることを期待し、かつ、そのような期待をもつことが社会的に合理性をもつといえるケースでは、労働関係の成立が確実といえない場合にも、「使用者」として団体交渉に応じるべきであるとの見解もあります(西谷154頁)
さらに、ある事業をその労働者の大部分を引き継いで譲り受ける過程で、事業譲受企業が組合員を採用から排除した、ないしは採用後の労働条件について組合との団体交渉を拒否したケースで、事業の譲受企業の使用者性を認めた例もあります(盛岡観山荘病院事件中労委平20.2.20命令集140集813頁)。
労働組合(ユニオン)への対応
今後、雇用関係を締結する可能性が全くなく、労働者としても雇用関係が成立することを期待しえないような場合であれば、会社とは無関係な労働者ですから、団体交渉を拒否しても問題ありません。
もっとも、採用することが具体的になっている場合など、近い将来において、雇用契約関係に入る可能性がある場合には、安易に団体交渉を拒否せずに、十分に検討した上で判断すべきといえます。
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