会社の掲示板にユニオンを批判する記事を出すのは法的に問題ですか?

執筆者
弁護士 鈴木啓太

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士

質問マーク労働組合(ユニオン)を批判する内容の記事を会社の掲示板に掲載しようと思います。

なにか法的に問題になることはあるでしょうか?

パワハラのイメージイラスト

 

 

弁護士の回答

弁護士竹下龍之介イラスト

組合組織・運営に影響を及ぼす内容の記事であれば、不当労働行為の支配介入にあたる可能性があります。

 

 

解説

使用者の言論の自由

自由のイメージ画像使用者にも表現の自由(憲法21条1項)が保障されていますから、会社内外を問わず、言論の自由は当然認められています。

もっとも、労働組合や労働者にも団結権(憲法28条)が保障されており、団結権を侵害するような使用者の行為は不当労働行為(労組法7条1項)として禁止されていますから、使用者の言論の自由もその範囲で制限されることになります。

使用者の言動によって、労働組合の団結権が侵害されるような場合には、当該使用者の言動は、支配介入による不当労働行為と評価される場合があります。

 

反組合的言論の不当労働行為に該当性

解説する弁護士のイメージイラストでは、使用者の言論が支配介入による不当労働行為と評価されるのはいかなる場合でしょうか。

この点、米国においては、使用者の発言を厳格に規制するワグナー法下での扱いがタフト・ハートレー法によって緩和され、使用者の言論に「報復もしくは暴力の威嚇もしくは利益の約束」を含まない場合には、不当労働行為には該当しないとされています。

労働組合法では、具体的に使用者の言動について規定されていませんので、判例に着目することになります。この点、プリマハム事件(東京地判昭51.5.21労判254号42頁 判時832号103頁)は、次のように判示しています。

裁判所のイメージ画像「使用者だからといって憲法21条に掲げる言論の自由が否定されるいわれがないことはもちろんであるが、憲法28条の団結権を侵害してはならないという制約をうけることを免れず、使用者の言論が組合の結成、運営に対する支配介入にわたる場合は不当労働行為として禁止の対象となると解すべきである。これを具体的にいえば、組合に対する使用者の言論が不当労働行為に該当するかどうかは、言論の内容、発表の手段、方法、発表の時期、発表者の地位、身分、言論発表の与える影響などを総合して判断し、当該言論が組合員に対し威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼすような場合は支配介入となるというべきである。」
と判示しています。

プリマハム事件で問題となったのは、団体交渉決裂直後に発表された組合を批判する内容の社長声明文の発表が支配介入に該当するかが問題となりました。

社長声明文の内容(一部を抜粋)は以下のようなものでした。

従業員の皆さん

本年の賃上げ交渉も大変不幸な結果になってしまいました。

会社は常に従業員とその家族の皆さんが、幸福な生活が出来るよう努力すると共に、お得意先、消費者並びに株主の方方への義務を配慮しながら経営を進めて来ております。

しかし経済界の変動が激しく、年間計画通りの成績をあげ得ることが出来ないのが状態であります。しかし我が社は昨年、一昨年のストライキ後遺症が、未だ癒えきらないで残っております。

こうした状態ではありますが、本年度の皆さんの要求に対しては、支払能力を度外視して労働問題として解決すべく会社は、素っ裸になって金額においては、妥結した同業他社と同額を、その他の条件については相当上廻る条件を、4月15日提示しました。これは速やかに妥結して、今後は会社と従業員の皆さんが一体となって生産に、販売に協力して支払源資を生み出す以外に、プリマの存続はあり得ないと判断したからであります。

ところが組合幹部の皆さんは会社の誠意をどう評価されたのか判りませんが、団交決裂を宣言してきました。

これはとりもなおさず、ストライキを決行することだと思います。私にはどうもストのためのストを行わんとする姿にしか写って来ないのは、甚だ遺憾であります。

会社も現在以上の回答を出すことは絶対不可能でありますので、重大な決意をせざるを得ません。お互いに節度ある行動をとられんことを念願いたしております。

以上

 

裁判所は、上記の判断要素を踏まえて、この社長声明文について詳細に検討をしています。

① 「従業員の皆さん」という点は、組合員全員を対象にしていると評価できる。

② 「組合幹部の皆さんは」という文言については、組合執行部の態度を批判することにより、執行部と一般組合員との間の離反をはかる恐れがある。

③ 「ストのためのスト」という文言については、組合の団交決裂宣言が直ちにストライキを決行するという趣旨でないことは、会社において十分に認識していたものと思われる。
また、団体交渉の経過から組合側が団交決裂宣言をしたことはやむをえないものと評価でき、いたずらに闘争一点張りに走る態度であったとはいえない

④ 「重大な決意」との文言は、一般的にいって組合員に対する威嚇的な効果をもつことは否定できない。

⑤ 「節度ある行動をとるように」との文言は、組合員に対するストライキ不参加の呼びかけといえること。

以上のような事情を総合考慮し、社長声明文の発表は支配介入の不当労働行為に該当すると結論づけています。

会社のイメージ画像学説の有力な考え方としては、まず、使用者及び使用者の利益を代表する管理職が、本来労働組合自身が自主的に決定すべき組合の組織や運営のあり方に関してなす発言は、そこに報復、威嚇、強制、利益誘導などの要素が含まれていなくても、支配介入になりうると解し、それ以外の問題、特に使用者の利益を侵害する組合活動に関係する使用者の言論は、そこに報復・威嚇などの要素が含まれている場合に限り、支配介入に該当すると考えるべきであるとの見解があります(西谷202頁)





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