過去のユニオン活動を理由に不採用にすることはできますか?

執筆者
弁護士 鈴木啓太

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士

質問マーク採用にあたり、過去の労働組合(ユニオン)での活動を考慮して不採用としたのですが、不利益取扱に該当しますか?

無効のイメージイラスト

 

 

弁護士の回答

弁護士牟田口裕史イラスト

採用の拒否が従前の雇用契約関係における不利益な取扱いと評価できる場合などの特段の事情がない限り、労働組合法7条1号本文にいう不利益な取扱いにあたりません。

 

 

解説

不利益取扱(労組法7条1号前段)とは

六法全書のイメージ画像不当労働行為の不利益取扱は、個々の労働者に対する使用者の行為によって成立する点に特徴があります。

使用者が、労働者が組合員であることを理由として、その労働者を不利益に取り扱うようなことがあれば、組合に加入する労働者が減り、労働組合の存立、活動に悪影響が及びます。そのような事態を防止するために、労組法は、使用者が、組合員であること等を理由として不利益に取り扱うことを禁止しているのです。

不利益取扱が成立するのは、
①労働者が労働組合員であること、労働組合に加入しもしくはこれを結成しようとしたこと、もしくは労働組合の正当な行為をしたこと
②そのことの故をもって
③労働者に対する解雇その他の不利益な取扱いがなされた場合です。

 

採用拒否により不利益取扱は成立するか

不採用のイメージイラスト日本の不当労働行為制度の母法である米国では、不利益取扱の禁止規定の中で、「採用」についての差別的取扱の禁止が明示されており、労働委員会が採用の救済命令を発しうることが判例となっています。

しかし、日本の労組法では、不利益取扱い禁止規定には、「解雇」しか明記されていませんので、採用差別した場合に不当労働行為が成立するのか問題となるのです。

この点、学説と判例で見解は分かれています。

解説する弁護士のイメージイラスト通説では、日本においても職業別組合、産業別組合、地域労組などの企業外組合は数多く存在し、企業外組合の組合員又は活動家であることを理由に採用差別されるケースは発生し得るのであり、労組法の趣旨から、企業外組合を保護の対象外としていることは考えられないことから、組合員ないし組合活動家であることの故の不採用も不当労働行為が成立すると考えられています(菅野971頁)。

その一方で、最高裁判例(最一小判平15.12.22民集57巻11号2335頁)では、下記のとおり、会社の採用の自由を重視して、特段の事情がない限り、不当労働行為には該当しないと判断しています。

【参考判例】JR北海道・日本貨物鉄道事件 最一小判平15.12.22(民集57巻11号2335頁)

事案の概要

線路のイメージ画像国鉄からJRに民営化されるにあたって、JR各社の設立委員会が、職員の労働条件と採用基準を作成し、国鉄がそれを提示して職員の募集を行い、職員となる意思を表示した者の中から、設立委員の示した基準に従って採用者名簿を作成し、設立委員は、その中から採用する者を決定するということになっていた。
しかし、労働組合に加入していた労働者が職員となる意思表示をしたにもかかわらず、採用候補者名簿に記載されなかったため、名簿の作成過程において不当労働行為があったのではないか争われた事案である。


判旨の概要

判例のイメージイラスト「企業者は、いかなる者を雇入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、原則として自由に決定することができるものであり、他方、企業者は、いったん労働者を雇い入れ、雇用関係上の一定の地位を与えた後においては、その地位を一方的に奪うことにつき、雇入れの場合のような広い範囲の自由を有するものではない。そして、労組法7条1号本文は、雇入れにおける差別的取扱いが前段の類型に含まれる旨を明示的に規定しておらず、雇入れの段階と雇入れ後の段階とに区別を設けたものと解される。そうすると、雇入れの拒否は、それが従前の雇用契約関係における不利益な取扱いにほかならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるなどの特段の事情がない限り、労働組合法7条1号本文にいう不利益な取扱いに当たらないと解するのが相当である。」と判示しています。

このように、判例では特段の事情がない限り、採用の拒否は不利益取扱の不当労働行為には該当しないと判断されています。

 

実務での対応

最高裁判例からすると、過去の組合活動を理由に採用を拒否しても、特段の事情がない限り、不当労働行為には該当しませんが、これをそのまま鵜呑みにして、採用を拒否することは危険です。

学説における通説では、前の職場での組合活動などを理由とする純粋の採用拒否も不利益取扱の不当労働行為が成立すると考えられています(西谷166頁)。

裁判所のイメージ画像最高裁判例の立場に立った場合でも、特段の事情の存在が認められれば、採用拒否も不当労働行為に該当することになります。

したがって、組合員であること、組合活動家であることを理由として採用拒否をした場合、労働組合が介入する可能性は高いと考えられます。そのような紛争を防止するためにも、企業には採用にあたって十分な配慮が求められます。

 

 





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