事業譲受した際、労組活動に活発な従業員を不採用とできますか?

執筆者
弁護士 鈴木啓太

弁護士法人デイライト法律事務所 パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士

質問マーク事業譲渡にあたって、譲受企業をすることになりました。

譲渡企業でユニオンに加入し組合活動を活発にしていた従業員を不採用としたいと考えています。

これは不当労働行為にあたりますか?

不採用のイメージイラスト

 

 

弁護士の回答

弁護士橋本誠太郎イラスト

不採用が実質的にみて解雇であると評価される場合には、不当労働行為に該当します。

 

 

解説

事業譲渡における不当労働行為

事業譲渡にあたって、譲渡企業で就労していた従業員を解雇して、譲受企業がその従業員を採用する場合があります。

この場合、解雇された従業員の希望する者の全員が譲受企業で就労することができるのであれば特に問題は生じませんが、譲受企業での就労を希望したにもかかわらず、不採用となった場合は問題です。

面接のイメージ画像その不採用とした理由が労働組合に加入していたこと、あるいは、その活動を理由とする場合には、不当労働行為における不利益取扱(労組法7条1号前段)に該当する可能性があります。

上記のような譲渡過程において従業員を採用しないことは実質的にみて解雇とも考えられますが、形式上は採用の拒否ですから、当然に不当労働行為(不利益取扱)に該当するとはいえません。

 

参考判例

判例のイメージイラスト以下でご紹介する青山会事件(東京高判平14.2.27労判824号17頁)では、東京高裁は、事業譲渡の過程での新規採用が、実質的にみて解雇であることを理由に不利益取扱の不当労働行為を認めています。

【参考裁判例】青山会事件 東京高判平14.2.27 (労判824号17頁)

事案の概要

医療法人財団Yは、Aが経営するB病院をAから事業譲渡する合意をした。

判例の事業譲受の解説イラスト
その合意文書の中には、Aの職員をYが採用するかどうかはYの専権事項であるという文言が含まれていた。

その後、AはB病院の全職員を解雇し、Yは、B病院の職員であった55名の内、32名を採用した。B病院の職員であったCとDは、採用を希望していたにもかかわらず、採用面接も行われず、採用されなかった。

一方で、Yは、採用を希望していなかった職員に対して、Yで就労するように説得するなどしていた。CとDは、B病院に唯一存在するX労働組合の組合員であり、組合員は両名以外にはいなかった。

そこで、X労働組合は、CとD不採用は不当労働行為であるとして、労働委員会に申し立てたところ、E労働委員会、中央労働委員会ともに不当労働行為であることを認めたため、Yはその取消しを求めて訴訟提起した事案である。


判旨の概要

東京高裁は、Yが実施したB病院の元従業員の採用状況に着目し、「実質的にはAの職員の雇用関係も承継したに等しいものとなっている」とした上で、「YがCおよびDの両名をことさらに採用の対象から除外したのは、この両名がX労働組合に所属し、組合活動を行っていたことをYが嫌悪したことによるものである」と判示し、Yの反組合意思を認定した。
その上で、Yの事業譲渡にあたっての新規採用は、「新規採用というよりも、雇用関係の承継に等しいものであり、労組法7条1号本文前段が雇入れについて適用があるか否かについて論ずるまでもなく、不採用について同規定の適用があるものと解すべきである。」と判示した。


判例の分析

分析のイメージイラスト青山会事件での争点は、事業譲渡にともない、多くの従業員の労働契約が承継される一方、労働組合の組合員2名が承継を希望したにもかかわらず、承継を認めなかったことが不当労働行為に該当するかどうかという点です。
本事件では、労働者C、D以外の従業員については、引き続きYで就労するように働きかけているにもかかわらず、Yでの就労を希望しているC、Dには面接もしないという処置をとっており、事業承継にあたり労働者C、Dを排除しようとしていることが窺われ、その理由は、労働者C、Dが組合活動を行っていたことにあると認定されました。
本判決では、こういった事情から、採用段階における不当労働行為の問題と考えるのではなく、事業譲渡の過程の実質に着目し、不採用は実質的に解雇であると評価し、不当労働行為として認定しています。

 

採用拒否は不当労働行為に該当するか

採用の拒否が、不当労働行為に該当するかという点について、米国では、採用前に組合に所属していたことを理由として採用拒否をした場合には、不当労働行為に該当することは明記されていますが、日本の労働法には明記されていません。

そこで、判例と学説の見解が注目されますが、判例と学説の見解は分かれています。

不採用通知のイメージ画像学説(通説)においては、前の職場での組合活動などを理由とする純粋な採用拒否も不利益取扱の不当労働行為となると考えられており(西谷166頁、菅野971頁)、労働委員会も、組合所属を理由とする採用拒否は実質的に黄犬契約と異ならないことを理由として、採用拒否が不当労働行為になりうることを肯定しています。

しかし、判例は、使用者には採用の自由(憲法22条1項)があり、また、労組法7条の文言に着目して、当該採用の拒否が、従前の労働契約関係における不利益取扱にあたるなどの特段の事情がある場合を除いて、不利益取扱の不当労働行為には該当しないと判断しています。

 

 





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