社内に複数の労働組合がある場合、団体交渉への対応に差があると法律的に問題ですか?

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家

質問マークわが社には多数派の労働組合と少数派の労働組合があります。

団体交渉の際に、多数派と少数派との間で、回答内容や団交方法に差異を設けることはできますか?

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弁護士の回答

弁護士本村安宏イラスト

労働組合間で差異を設けると、不当労働行為に該当する可能性があります。

 

 

解説

労働組合の差別的取扱

企業内に複数労働組合が併存する場合、その労働組合間の取扱いをめぐって問題となることがあります。

諸外国においては、多数派労働組合が排他的な団体交渉を獲得し、その他の労働組合の交渉権は全面的に否定されるケースもあります。

他方、日本においては、このような排他的交渉代表制度は認められていません。すなわち、企業内に存在する複数の労働組合は、それぞれ固有の団体交渉権を有しています。

団体のイメージ画像この問題について、最高裁も、各組合は、それぞれ独自の存在意義を認められ、固有の団体交渉権及び労働協約締結権を保障されているものであるから、その当然の帰結として、使用者は、いずれの組合との関係においても誠実に団体交渉を行うべきことが義務づけられているものといわなければならず、また、単に団体交渉の場面に限らず、すべての場面で使用者は各組合に対し、中立的態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきものであり、各組合の性格、傾向や従来の運動路線のいかんによって差別的な取扱いをすることは許されないと判示しています(日産自動車事件:最三小判昭60.4.23民集39巻3号730頁)。

したがって、多数派組合といえども、団体交渉において特別扱いを行ったりすると、不当労働行為にあたることになります。

 

団体交渉における実質的平等

解説する弁護士のイメージイラスト前記のとおり、複数労働組合が併存する場合、団体交渉の際、組合によって回答内容、団体交渉の方法などで差異を設けることは団体交渉拒否ないし支配介入の不当労働行為となるおそれがあります。

【参考裁判例】NTT西日本事件(東京高判平22.9.28労判1017号37頁)

事案の概要

この事案は、NTT西日本(控訴人)が、自己の策定した経営計画に基づく構造改革に伴う退職・再雇用制度の導入等について、少数派労働組合である参加人に対する取扱いと他の多数派労働組合に対する取扱いとに差異を設け、参加人の配転の実施方針に関する団体交渉に応じなかったことは不当労働行為に該当するとして、労働委員会から救済命令を受けたため、同命令の取消しを求めたところ、原審で請求を棄却されたことから、控訴した事案である。


判旨

判例のイメージイラストこの事案において、裁判所は、控訴人が、本件退職・再雇用制度の導入の当初提案の時期を多数派労働組合と参加人とで同一にしなかったこと、本件制度につき、必要な限りで多数派組合と同様の資料提示及び説明を行わなかったこと、配転基準や手続などの実施方針に関する協議を拒んだことなどの一連の対応は、控訴人の誠実交渉義務に違反するもの判断している。

 

少数派組合に対する誠実交渉義務

複数労働組合が併存する場合、差別的な取扱いが禁止されるとはいっても、当該組合の規模に圧倒的な違いがある場合もあります。

そのような場合、使用者が事業場の統一的労働条件形成のために、少数派組合との労使関係を多数派組合との団体交渉及び合意を中心に運営することは、労務管理上、自然の成り行きといえます。

したがって、使用者が多数派組合との合意内容で少数組合と妥結すべく、これに固執することは、団体交渉において十分な説明と協議を行うかぎり、非難されるべき対応とはいえません。

裁判所のイメージ画像前掲の最高裁判例(日産自動車事件)も、
「使用者において複数の併存組合に対し、ほぼ同一時期に同一内容の労働条件について提示を行い、それぞれに団体交渉を行った結果、従業員の圧倒的多数を擁する組合との間に一定の条件で合意が成立するに至ったが、少数派組合との間では意見の対立点がなお大きいという場合に、使用者が、右多数派組合との間で合意に達した労働条件で少数派組合とも妥結しようとするのは自然の成り行きというべきであって、少数派組合に対し右条件を受諾するよう求め、これをもって譲歩の限度とする強い態度を示したとしても、そのことから直ちに使用者の交渉態度に非難すべきものがあるとすることはできない。」
と判示しています。

解説する弁護士のイメージイラストなお、この判例に対しては、多数派組合の自主性が乏しく、多数派組合との合意が実質的に使用者の意思に近いといえる場合、少数派組合に対する不当労働行為と評価される場合があると指摘する学説があります(西谷310)。

 

 





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