ボーナスの査定基準は義務的団交事項に該当しますか?

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家

質問マーク労働組合(ユニオン)が団体交渉において、ボーナスの具体的内容や査定基準について、資料の提示を求めてきました。

わが社としては、人事権・経営権を理由として説明を拒否したいと考えています。労働組合(ユニオン)のこのような要求に対して、そもそも団体交渉に応じる義務があるのでしょうか?

また、資料を提示すべきでしょうか?

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弁護士の回答

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ボーナスの査定基準は義務的団交事項に該当します。また、資料についても提示すべきです。

 

 

解説

義務的団交事項

使用者は、労働組合からの団体交渉申入れがあった場合、義務的交渉事項についての申入れであれば、交渉に応じる義務があります(労組法7条2号)。

義務的交渉事項とは、「組合員である労働者の労働条件やその他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」をいいます(菅野850頁)。

給料のイメージイラスト例えば、賃金、労働時間、休息(休憩・休日・休暇)、安全衛生、災害補償、教育訓練などが「労働条件やその他の待遇」の典型です(義務的団交事項について、くわしくはQ&A「個人的な労働問題についても団体交渉に応じる必要はありますか?」を参照してください。)。

今回のような場合、ボーナスは「労働条件やその他の待遇」に該当するので、義務的団交事項といえます。

他方、「人事権・経営権」という言葉は、よく使用者側の根拠として主張されることがあります。

辞令のイメージ画像確かに、使用者には、労働者の採用、配置、異動、人事考課、昇進、昇格、降格、休職、解雇など、労働者の地位の変動や処遇に関する決定権限があります。しかし、使用者の人事権は、不当労働行為の禁止という法規制を受けています(労組法7条)。

また、経営権という主張についても、法律上、経営権という団体交渉を免れるための特別の権利が使用者に認められているわけではありません。

したがって、人事権・経営権を根拠として、ボーナスの具体的内容や査定基準についての交渉を拒否することはできません。

 

誠実交渉義務

使用者は、義務的団交事項について、単に交渉に応じるだけではなく、誠実に交渉に応じなければなりません。これを誠実交渉義務といいます。

誠実交渉義務について、裁判例(カール・ツアイス事件)は、次のように判示しています(東京地判平元.9.22労判548号64頁)。

「労働組合法七条二号は、使用者が団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことを不当労働行為として禁止しているが、使用者が労働者の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉に当たったとは認められないような場合も、右規定により団体交渉の拒否として不当労働行為となると解するのが相当である。このように、使用者には、誠実に団体交渉にあたる義務があり、したがって、使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、右のような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があるものと解すべきである。」

ビジネスマンのイメージ画像この裁判例からも明らかなように、使用者の誠実交渉義務は、労働組合の要求に対して、誠実に対応することを通じて、合意達成の可能性を模索する義務をいいます。そして、使用者のいかなる態度が不誠実となるかは、団体交渉をめぐる諸事情を具体的に考慮して判断されることとなります。

ボーナスの内容や査定基準に関しては、具体的に説明し、かつ、使用者側の主張の根拠となる査定資料について相当な範囲で提示すべきといえるでしょう。

したがって、例えば、単に、就業規則に従って経験年数や能力を考慮するなどという説明だけでは誠実交渉義務に反すると考えられます。

プライバシー保護との関係

疑問に思う女性のイメージイラスト労働組合から、労働者全員のボーナス支給額を公表するように求められることがあります。

これについては、当該労働者のプライバシー保護の観点から、原則として開示する必要はなく、開示を拒否しても、正当性が認められると考えます。

後掲の参考判例も、
「職員個人の評価の結果を記載した考課表を公表することは当該個人の名誉にかかわるところが大きいのみならず、当該個人に対する使用者側の評価をも公表することになって妥当でない。したがって学園が組合に対し考課表の公表を拒絶したことは不当ではない。」
として、開示拒否を認めています。

なお、プライバシー保護は、当該労働者の権利を護るためですので、当該労働者自身がボーナス支給額の開示に同意しているような場合は使用者の開示拒否に正当性は認められません。

【参考裁判例】倉田学園大手前高松高等(中)学校事件(東京地判昭63.7.27労判524号23頁)(最一小判2.10.25労判600号9頁)

事案の概要

香川県地方労働委員会(被告)は、補助参加人である労働組合(判旨では「組合」と表記。)が、使用者である学校法人(原告、判旨では「学園」と表記。)を被申立人として申し立てた不当労働行為救済申立事件について、団体交渉に学園が応じないのは不当労働行為であるとして、救済命令を発した。学園は、この命令を不服として、再審査の申立てをしたところ、被告は、学園側の主張を退けた。本件は、原告が被告の命令の取消しを求めた事案である。


判旨

学校のイメージ写真裁判所は、次のように述べて、原告の請求を棄却している。
「確かに、職員個人の評価の結果を記載した考課表を公表することは当該個人の名誉にかかわるところが大きいのみならず、当該個人に対する使用者側の評価をも公表することになって妥当でない。したがって学園が組合に対し考課表の公表を拒絶したことは不当ではない。しかしながらまた勤務評定は客観的資料に基づき公平かつ適正に行なわれなければならないことはいうまでもないところであるから、評定事項及びその重要度等は能う限りこれを明らかにし被評定者の信頼を得るように努力する必要があるところ、前記認定事実によれば、学園は組合に対し、既に右評定事項については項目を分けて詳細に説明しているが、評定事項の重要度については全く説明していないし、前記成績率についても団体交渉において今少しきめ細かい説明も可能であったと考えられるにもかかわらず、学園は自己の立場を固執する余り十分な説明をなさなかったものといわざるを得ない。
したがって、学園が右団体交渉において交渉義務を尽くしているということは到底できないから、この点に関する原告の主張は採用できない。」

 

 





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