団体交渉において、経営資料などの開示を経営権を理由に拒否できますか?

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家

質問マーク労働組合(ユニオン)が団体交渉において、賃上げを求めてきました。

これに対して、わが社は経営不振を理由に賃上げを拒みました。

すると、今度は経営実態を具体的に示す資料の開示を求めてきています。このような要求に対して、経営権を理由に拒否することはできますか?

ストライキのイメージイラスト

 

 

弁護士の回答

弁護士西村裕一イラスト

具体的な説明資料を開示しない場合、不誠実交渉として不当労働行為にあたる可能性があります。

 

 

解説

誠実交渉義務

解説する弁護士のイメージイラスト使用者は、労働組合からの団体交渉申入れがあった場合、義務的交渉事項についての申入れであれば、交渉に応じる義務があります(労組法7条2号)。

また、使用者は、単に応じるだけではなく、誠実に交渉に応じなければなりません。これを誠実交渉義務といいます。

誠実交渉義務について、裁判例(カール・ツアイス事件)は、次のように判示しています(東京地判平元.9.22労判548号64頁)。

判例のイメージイラスト「労働組合法七条二号は、使用者が団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことを不当労働行為として禁止しているが、使用者が労働者の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉に当たったとは認められないような場合も、右規定により団体交渉の拒否として不当労働行為となると解するのが相当である。このように、使用者には、誠実に団体交渉にあたる義務があり、したがって、使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉に当たらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなどの努力をすべき義務があるのであって、合意を求める労働組合の努力に対しては、右のような誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する義務があるものと解すべきである。」

裁判官のイラストこの裁判例からも明らかなように、使用者の誠実交渉義務は、労働組合の要求に対して、誠実に対応することを通じて、合意達成の可能性を模索する義務をいいます。そして、使用者のいかなる態度が不誠実となるかは、団体交渉をめぐる諸事情を具体的に考慮して判断されることとなります。

なお、交渉相手である労働組合側が合意達成の努力を怠るなどの問題がある場合、誠実交渉義務は軽減されると解されています(西谷307頁)。

 

賃上げ交渉が問題となった事案

街宣活動のイメージイラスト労働組合が使用者に対して、団体交渉において賃上げを要求事項とし、これに対して使用者が経営実態を示す資料を提供せず、ゼロ回答をした事案(下記)において、裁判所は誠実交渉義務に反するとして不当労働行為にあたると判断しています。

【参考裁判例】東北測量事件(仙台高判平4.12.28労判637号43頁)(最二小判6.6.13労判656号15頁)

測量のイメージ画像裁判所は、
「一般に、使用者が、団体交渉において、組合の賃金引上げ要求に対しこのような回答をしているときには、労使間で、〈1〉使用者の主張する受注の減少及びその見込みが客観的に存在するか、〈2〉これが存在する場合にも、経費の削減や内部留保の取崩し等経営上の努力によって、なお賃金引上げをする余地がないかどうかをめぐって、交渉が行われるのが通常であり、また、〈3〉本件のように、組合員が使用者の特定の営業部門に雇用されている場合には、当該組合員の属する営業部門及び使用者の営業全体のそれぞれについて、右〈1〉〈2〉のような事情があるかどうかが、団体交渉における検討の対象となるのが通常であると考えられるが、このような場合、組合にとっては、使用者の回答の正当性を判断し、また組合の対案を提出するために、使用者側から右〈1〉ないし〈3〉の各点に関する各種の経理資料の提出を受け、これに分析、検討を加えることが通常必要不可欠であって、使用者側がこのような資料の提供を拒否し、客観的根拠のはっきりしない口頭の説明を繰り返すときには、労使間の団体交渉が実質的な進展を見ないことは明らかである。
また、使用者においても、右のような回答をしている以上、信義則上、自己が保有する右〈1〉ないし〈3〉の各点に関する経理資料を提出する等して回答の根拠を明確にすることが、当然要請されているものといわなければならない。」
と示し、結論として、使用者側の誠実交渉義務違反を認めて不当労働行為にあたると判断している。

ポイントまた、この事案では、労働委員会の救済命令において、労働組合から将来申し入れられる賃金引上げおよび一時金に関する団体交渉について、使用者の経営実態に関する具体的資料を提出すること等により誠実に応ずべきことを命ずることの可否についても争点となりました。

裁判所は、労働委員会のこのような命令について、労働委員会の裁量権の範囲を逸脱するものではなく、相当な措置として是認できると判断しています。

 

 





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