休職処分者や上部団体役員の参加する団体交渉を拒否できませんか?
団体交渉の出席者の中に休職処分者や上部団体役員が含まれているようです。
このような団体交渉を拒否できませんか?

休職処分者や上部団体役員が出席者にいても、団体交渉は拒否できません。
団体交渉における労働側の担当者
団体交渉は、基本的には交渉担当者の間で行われます。労働組合の交渉担当者については、労組法6条が「労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者」が交渉権限をもつと規定しています。
労働組合その他の団体(以下「労働組合等」)の代表者とは、組合規約における当該組合の対外的代表者として明示される者をいいます(菅野848頁)。
労働組合は、交渉の権限を第三者に委任することができます。この委任を受けることができる者の範囲について、制限はありません。
したがって、他の組合の役員、弁護士、被解雇者などのいかなる者でもかまいません。
出席者の中に休職処分者等が含まれている場合
前記のとおり、労働組合による交渉の委任の範囲に制限はありません。
したがって、使用者は、出席者の中に、休職処分者や上部団体役員が含まれていても、それを理由として団体交渉を拒否することはできません。
【参考裁判例】あけぼのタクシー事件(福岡地判昭62.4.28)
事実の概要
原告会社は、賃上げ及び一時金要求等についての補助参加人労働組合からの団体交渉申入れを、懲戒休職処分中である組合三役(委員長、副委員長、書記長)が出席すること、上部団体役員が出席することを理由に拒否したところ、補助参加人労働組合の申立てにより、福岡地労委が、この団体交渉拒否に正当な理由がなく、不当労働行為であると認定して救済命令を出したため、原告会社はその労委命令の取消しを求めた。
判旨(抜粋)
裁判所は、休職処分者の出席について、
「労働組合の役員が休職処分中であるといっても、その役員たる地位に変わりはなく、団体交渉に出席できなくなるものではないことは明らかであるから、団体交渉拒否の正当な理由とはなり得ない。原告は、処分中の者とは団体交渉しないというのは、就業規則上、処分中の者は会社構内に入れないから構内では団体交渉に応じられないというだけの趣旨である旨主張するけれども、そこで立入禁止の根拠とする就業規則17条は、その規定自体「……職場へ入ることを禁止し又は退場させることがある。」という任意的な定め方になっており、原告がこれを適用しないことに何らの不都合がないばかりでなく、そもそもこの規定の趣旨は被処分者が濫りに会社を訪れることによる企業秩序の紊乱を防止することにあると解されるところ、組合役員が団体交渉のために会社構内に立ち入ることが右規定で想定されているような企業秩序の紊乱になるとは到底考えられないから、原告の右主張は理由がない。」
と判示した。
また、上部団体役員の出席については、
「原告は、処分期間満了後である昭和57年11月に補助参加人組合員らが申し入れた団体交渉を、主として上部団体の役員が出席することを理由に拒んでいるが、労働組合の上部団体も、それがその構成員に対して実質的な統制力をもった労働組合の実体を備えているかぎり、独立に団体交渉権を有しているのであるから、原告としては補助参加人とともに上部団体役員が出席することを拒むことは原則としてできないというべきであって、正当な団体交渉拒否理由とはなり得ない。」
と判示し、使用者側の不当労働行為を認めた。


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会
保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
専門領域 / 法人分野:労務問題、ベンチャー法務、海外進出 個人分野:離婚事件
実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所の代表弁護士。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行なっている。『働き方改革実現の労務管理』「Q&Aユニオン・合同労組への法的対応の実務」など執筆多数。
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