団体交渉申入書に具体的な要求事項がない場合、団体交渉を拒否できますか?
ユニオン(合同労組)から団体交渉の申入書が届きました。申入書にはユニオンの要求事項が記載されていましたが、具体的ではなかったため団体交渉の準備ができません。
このような場合、ユニオン(合同労組)に対して、要求事項の具体化を求めることができますか?また、ユニオンが具体的な要求事項を提示しない場合、団体交渉を拒否できますか?

労働組合からの団体交渉の要求に対して、要求項目の具体的な説明を任意に求めることはできます。
しかし、ユニオン(合同労組)が回答しない場合、それを理由に団体交渉を拒否すると不当労働行為となるおそれがあります。
目次
団体交渉の要求事項に対する質問
労働組合が使用者に対して団体交渉を申し入れる場合、書面で申し入れることがよくあります。この場合の書面は、例えば下記の書式のようなものが典型です。
団体交渉申入書
上記の書式では、要求事項として、「過去の未払い残業代を支払うこと」、「非正規社員を正規社員として採用すること」、「就業規則、賃金規定、三六協定を提出すること」、「その他」と記載されています。
いきなりこのような要求がなされても、会社としては労働組合の具体的な要求事項の判断ができないことがあります。例えば、上記の例では、「過去の未払い残業代」と記載されていても、誰の未払い残業代かが判然としませんし、残業代が発生した期間等の具体的な中身もわかりません。
また、「非正規社員」とは期間の定めのある雇用契約の従業員のことなのか、パートタイマー等を含むのか、判然としません。
そこで、このような抽象的な要求事項に対し、使用者が労働組合に対して説明文書の提出を求めることがあります。
この場合の書面は、質問書のようなものが典型です。
質問書
書式にあるような質問は、充実した団体交渉のための準備として合理的であり、労働組合が任意に回答するのであれば問題ありません。
実際に、労働組合の要求には様々な事項が記載されていることが多く、要求が抽象的なだけではなく、中には文章の意味や要求の趣旨が不明確なこともあります。
このような場合、団体交渉本番までに質問書を送付し、回答してもらうことで事前準備を行うことがあります。
説明文書を提出しない場合の団体交渉拒否
問題は、仮に、労働組合が質問に対して回答しない場合、それを理由として団体交渉を拒否できるかです。
団体交渉の拒否については、正当な理由が必要です(労組法7条2号)。通常、労働組合は使用者の質問に回答する義務はなく、労働組合が回答しないからといって団体交渉を拒否するほどの正当な理由はないと考えられます。
したがって、団体交渉拒否は不当労働行為に該当するおそれが高いといえます。
【参考裁判例】大阪赤十字病院事件(大阪高判平元.8.18労判554号91頁)
この裁判例は、組合の交渉要求に対し、使用者側がその要求項目の正当性等についての説明文書の提出を求め、その不提出を理由に団体交渉に応じなかった事案である。
この事案において、裁判所は、以下のとおり、使用者の団体交渉拒否を不当労働行為に当たると判断した。
「組合の団体交渉要求事項について、その趣旨、理由、根拠並びに正当性(均衡の原則、経済原則)等を団体交渉の前提として予め文書で説明しておかなければならないとする根拠はなく、また、その文書による説明がなければ団体交渉をすることができないというものでもないのであって、現に病院と組合との間において、従前からほぼ同様の要求事項についてそのような文書による説明なしで団体交渉が行われてきたことは前記認定のとおりであるから、組合が3.11病院申入れに沿って要求の正当性等を説明した回答書を提出しないことを理由に団体交渉を拒否することはできないというべきであり、したがって、病院の右拒否理由は正当とは認め難いといわなければならない。
この点につき原告は、右要求事項には病院に処理権限のない事項等団体交渉になじまない項目が多数含まれており、それが本件団体交渉拒否理由の最大の眼目であるから、この拒否は正当な理由によるものであって不当労働行為にはならないと主張しており、また、使用者に処理権限のない事項が団体交渉の対象となりえず、それを理由に当該事項についての団体交渉を拒否しても、正当な理由による団体交渉の拒否として不当労働行為にならないことは、一般論としてはそのとおりであるけれども、本件の場合、病院がそれを理由に組合の団体交渉申入れを拒否したものとは認められないことは前記のとおりであるから、右要求事項のうちいずれが団体交渉事項に当たり、いずれが該当しないかについて論ずるまでもなく、これをもって本件団体交渉の拒否を正当ならしめる理由とすることはできない。」


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会
保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
専門領域 / 法人分野:労務問題、ベンチャー法務、海外進出 個人分野:離婚事件
実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所の代表弁護士。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行なっている。『働き方改革実現の労務管理』「Q&Aユニオン・合同労組への法的対応の実務」など執筆多数。
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