個人的な労働問題についても団体交渉に応じる必要はありますか?
ユニオン(合同労組)が組合員の解雇の撤回を求めています。
このような個人的な労働問題についても団体交渉に応じなければなりませんか?

団体交渉に応じる必要があります。
義務的団交事項
団体交渉でいかなる議題について交渉するかは、基本的には交渉当事者が自由に決めることができ、制限があるわけではありません。
例えば、株主総会の決定事項なども、使用者が任意に応ずるかぎり、団体交渉の議題にあげてかまいません。
しかし、労組法は7条において、使用者が正当な理由なく団体交渉を拒否すると不当労働行為にあたると規定しています。そして、使用者の団交応諾義務を具体化するために、この団体交渉拒否に対する行政救済の制度を定めています(労組法27条以下)。
そのため、不当労働行為救済制度との関係で、労働者の要求に対して使用者が交渉を拒否できない対象事項の範囲を把握しておく必要があります。その使用者が交渉を拒否できない対象事項を義務的交渉事項といいます。
それ以外の事項は、任意的交渉事項と呼ばれます。
義務的交渉事項の一応の定義としては、「組合員である労働者の労働条件やその他の待遇や当該団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」と表現されます(菅野850頁)。
例えば、賃金、労働時間、休息(休憩・休日・休暇)、安全衛生、災害補償、教育訓練などが「労働条件やその他の待遇」の典型です。
また、組合員の配転、懲戒、解雇などの人事の基準(理由ないし要件)や手続(労働組合との協議、組合の同意)も「労働条件やその他の待遇」であり、義務的交渉事項です。
就業規則の制定・改定についても義務的交渉事項です。
労基法90条1項は、使用者に労働者の過半数の代表の意見聴取を義務づけるにとどまり、交渉までは要求していませんが、就業規則の内容が労働条件に極めて重要な影響を及ぼすことから、労働組合が要求した場合、使用者は交渉に応じなければなりません。
個人的労働条件
多くの国では、団体交渉は、集団的労働条件の基準の形成に関する手続であり、個々の労働者の解雇や配転等の取扱いは、団体交渉とは区別された苦情処理手続によって処理されています。
しかし、日本の民間企業においては、苦情処理手続が存在しない場合が多く、また、企業別組合では個々の組合員の要求を実現することも重要な課題であることから、労働委員会でも裁判所でも、個人的労働条件も義務的交渉事項であるとの解釈が確立しています(日本鋼管事件:東京高判昭57.10.7労判406号69頁)。
ユニオン・合同労組の団体交渉は、むしろ組合員個人の労働条件等をめぐって行われることが典型です。
ユニオン(合同労組)から解雇した組合員の解雇撤回を求めて団体交渉が申し入れられた場合、企業は応じなければなりません。
労働組合が団体交渉を要求しているにもかかわらず、使用者が当該個人との交渉に固執する場合、団交拒否の不当労働行為(労組法7条2号)のほか、支配介入の不当労働行為(労組法7条3号)も成立する可能性があります。
その他、ユニオン(合同労組)からの団体交渉の要求事項の傾向としては、解雇問題以外にも、未払い残業代の請求、配転・出向、雇い止め、懲戒処分、昇給、ハラスメントなどがあります。


弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士
所属 / 福岡県弁護士会・九州北部税理士会
保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
専門領域 / 法人分野:労務問題、ベンチャー法務、海外進出 個人分野:離婚事件
実績紹介 / 福岡県屈指の弁護士数を誇るデイライト法律事務所の代表弁護士。労働問題を中心に、多くの企業の顧問弁護士としてビジネスのサポートを行なっている。『働き方改革実現の労務管理』「Q&Aユニオン・合同労組への法的対応の実務」など執筆多数。
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